四部屋構成・来場者参加型インスタレーション/情報代謝システム
2025年12月4日 – 12月21日(木曜ー日曜のみ)

会場:茨木市福祉文化会館(オークシアター)3階
主催|公益財団法人茨木市文化振興財団
後援:茨木商工会議所、茨木市観光協会
助成:一般財団法人地域創造、財団法人 花王芸術文化財団
Commissioned by Hub-Ibaraki Art Project(大阪・茨木)

キュレーション| 内田千絵(Hub-Ibaraki Art Project ディレクター / Art7ten
プログラミング| 城戸双汰朗

土壌が枯れた植物を分解し、次の生命を育むように、
情報がいかに代謝し続け、関係性の中から「差異」を生み出しうるのか。
アルゴリズムが世界を均質へと収束させる時代に、
そのために必要となる人間の馬力(創発の力)を探る試み。

「生成の庭」ダイアグラム
A diagram of Gardens of Becoming
展示会場写真は展覧会期後に更新します。
また「庭生成日記」もTEXT / WRITING Page で随時公開予定です。
「生成の庭」概要 Short Version

この展示には4つの部屋がある。
ロビー(緑
)、赤の部屋、そして循環の回路として働くアナログ(黄色)とデジタル(ピンク)の2室。
後者2つは一体となり、「Garden of Becoming」 と呼ばれる思考装置を構成している。
全体に通底する概念は information metabolism(情報代謝)。

土壌が枯れた植物を分解し、次の芽を育てるように、
情報も固定され、掘り起こされ、混ざり合い、別の形を生成する為の種となる。
ロビーで来場者は一輪の紙のバラを受け取る。
複製可能な情報の象徴であり、その裏には市民の声の断片が貼られている。
完成された「表」と、揺らぎを含む「裏」。
このバラはまだ眠っている 情報の種 である。
赤の部屋は声の地層。インタビューが壁を覆い、読むことは発掘に近い。
ここで「茨木市」は固定された像ではなく、声と声の関係として立ち上がる。
アナログの部屋には実際の花壇があり、来場者はバラを挿せる。
声の断片で新しい文章をコラージュしてもよい。
偶然や直感による組み合わせは 人間の馬力。
異質なものを結び、新たな視座を生む力となる。
USBカメラは配置座標のみを読み取り、デジタルの部屋に送る。カメラはバラの意味や色、感情を一切認識しない。
そこではAIが庭の状態を評価するが、指示はしない。
意味づけは常に人間の側にある。
情報は化石となり、再び掘り起こされ、行為と結合し、
新しい関係性としてデジタルに姿を現す。
この展示はその循環をひとつの生命体として示す。
そして展示自体もまた、
社会における 情報代謝を促す小さな〈種〉 となり、
未来へ受け継がれていく。



「生成の庭」概要 Long Version


この展示には4つの部屋がある。
ロビー(緑)、赤の部屋、そして循環の回路として働くアナログの部屋(黄色)とデジタルの部屋(ピンク)。
ロビーと赤の部屋は単体でも成立するが、アナログとデジタルは切り離せない一対であり、「Garden of Becoming」と呼ばれる思考装置として機能している。

この展示を貫いている基本構造は「information metabolism(情報代謝)」だ。土壌が枯れた植物を分解し、養分とし、再び芽を出すように、情報も混ざり、固定され、分解され、別の形を生成する為の種となる。

ロビーは種が持ち込まれる層、赤の部屋は声の地層であり、発掘と関係の再編が起こる層だ。
アナログとデジタルの部屋は人間の行為とAIの応答が循環しつづける代謝の現場である。
この3層と循環を成立させるために、4部屋は欠かせない。

来場者はまずロビーで、一輪のバラを受け取る。それは印刷された平面の造花。
複製可能で固定化された情報の象徴である。 
しかし裏面には、赤の部屋で集められた茨木市民の声の断片が貼られており、
完成した成果物(表)と、揺らぐ声の欠片(裏)という二面を併せ持つ。
つまりこのバラは、眠ったままの情報=seedとして来場者の手に渡る。 
のちに花壇で「植えられる」ことで初めて意味を発芽させる、小さな情報単位である。

赤の部屋に入ると、来場者は市民の声を「聞く」作業に没入する。
壁一面にはインタビューの書き起こしがコピー紙としてびっしり貼られ、
その中を読み進めることは、地層を掘り起こす発掘にも似ている。
ここには固定された輪郭としての「茨木市」はなく、声と声が触れ合い、流動し続ける関係の網だけがある。
ベイトソンが言うように、実体ではなく「関係性」として世界が立ち上がる層である。

次のアナログの部屋には、本物の花壇が置かれている。室内には、市民の声とAIの声が混ざり合い、ときに壊れたシステムのように同じ言葉を繰り返している。来場者は入口で受け取ったバラを、この花壇に挿すことができる。表をこちらに向けて挿してもいいし、裏側に回り、貼られた声の断片を組み合わせて新しい文章をコラージュしてもよい。
その文章は偶然に近い配置から生まれるかもしれないし、詩のような意味を帯びるかもしれない。いずれにせよ、その選択と組み合わせの行為そのものが、いずれにせよ、その選択と組み合わせの行為そのものが、人間の「馬力」、つまり異質なもの同士から差異を生み、新しい視点を立ち上げる力として作用する。

花壇の前にはUSBカメラが設置され、挿されたバラの本数と位置が座標として読み取られ、デジタルの部屋へ送られる。 そこでは床一面に、その座標情報をもとに生成された「デジタル花壇」がドット図として可視化されており、周囲にはソファとモニターが置かれている。 モニターには、アナログの部屋でのバラの配置が株価のような数値として流れ、AIがその変化を解析し、庭の状態を「優良」から「悪」まで五段階でリアルタイムに示す。AIはここで「評価」を伝えるだけで、「こうすべきだ」と指示はしない。判断と意味づけは人間に委ねられている。

この構造の背景には、アナログとデジタルの断層がある。私たちの物理世界は揺らぎやグラデーションに満ちているが、ひとたび「情報」として切り出されると、0か1、あるかないかという形式に還元されてしまう。
USBカメラは、裏側にコラージュされた文章や感情までは読み取らない。それは、私たちの日々の生活のほとんどが、次の世代に受け渡されるときには、断片的な「情報」としてしか残らないことにも重なる。

ここで重要なのは、「枯れる」とは植物の死ではなく、情報が固定されて変化を止める状態だということだ。
ロビーの造花のような情報はコピーや保存には便利だが、新しい芽を生まない。
だからこそ、理性と効率だけではない、人間の馬力が必要になる。
偶然のような飛躍で異質なものをつなぎ、新しい視座を立ち上げる力だ。その創造的なエネルギーが、情報代謝のエンジンとなり、豊かな有機物を含んだ土壌のように未来の多様性を育てていく。

情報はまず化石となって眠り、やがて揺らぎの層から発掘される。
そこで人の行為という養分と結びつき、新たな関係性として植えられ、そして最後に、デジタルの地表へと再び姿を現す。この循環全体を、この展示はひとつの有機体として示している。

そして、この展示そのものもまた、社会の情報代謝を促す〈種〉のひとつとなり、
来場者と未来の社会の循環のなかで続いていく。

The Power to Generate Difference: A Manifesto on Information Metabolism
「差異を生む馬力:情報代謝に関する宣言」


歓迎します。


すべてが固まった世界を信じる、理性と効率の時代から目覚めよ。

目の前にあるのは、固まった世界の断片です。

この部屋にある造花の花は、自然を模倣しようとした人間の技です。
コピー可能で均質な情報ですが、生命自体は存在しません。
そして、横にはこの土地の記録が、コピー可能で均質な情報(化石)として
堆積層のように並んでいます。

しかし、生命は静止しません。
これを関係性で読み解く時、休眠している種は花開く。 

哲学者グレゴリー・ベイトソンは言いました。
情報とは、「差異を生む差異」のことである。

デジタルは効率化を求め、世界を均質化します。
ですが、この先にあるシステムは、あなたの視点(差異)を渇望しています。

この循環の内部で、AIは人間の行為に駆動され、人間はAIに触発される。
生きているとは、関係性であり、差異を作り続けること。

AIを単なる道具ではなく、対話する仲間として迎え入れることで、
あなたは単一化に陥らず、差異を生む馬力を発見するでしょう。

あなたの選択(バラをさす位置)は、次の来場者の体験を決定し、
AIの認識を変え、循環システムに新しい観点を注入します。

それはまた貴方が、前に来た来場者(過去)と、まだ見ぬ未来の世代と、
時を超えて対話していることを意味します。


あなたの馬力を、
この情報の代謝へ投入してください。


2025年12月4日
尾角典子
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